かご専門のお店が町の中心部に何軒も並んでいる。
現在はプラスティック製品が幅を効かせているタイだけど、生活用品のほとんどが木から作られていた時代もあったのだろうなぁ。
装飾のない、いさぎよい美しさをもった実用本位の品。タイ人にはこういう道具を捨ててほしくないな〜、などというのはよそ者の勝手な言い分ではあるけれど。
ここはバンコクとパッタヤーの間にある、チョンブリー県のパナニコムという小さな町で、日本で言えば人間国宝まちがいなしの竹細工職人の工房のあるところだ。
『タイ 工芸の里紀行』という本を頼りに、バンコクから車で1時間半。
ソイのつきあたりに工房はあった。
向かって右側の日よけの下がったスペースで、現在の職人さんが思い思いにかごを編んでいる。向かって左側の暗いところはギャラリーになっており、精緻なつくりにため息が出るようなアンティークが並ぶ。
かご職人 "プラニーさん" の妹にあたる年輩の女性とお孫さんらしきかわいい女の子が、敷地内を案内してくれた。女の子は勉強中らしい英語であれこれ説明してくれるが、英語の不自由な私? のために、いつしかタイ語に切り替えてくれたようだ。
見応えのあるギャラリーで数々の作品に息を呑んでいると「きれいなものが好きなんだねえ」と、自宅スペースにある棚に案内された。これまた人間ワザとは思えない、レースのように繊細な竹細工が並んでいる。
小さな棚の下の方に無造作に置かれていたりんごのかたちの作品は、本でも最高傑作として紹介されていたものだ。
細工の細かい作品はほかにもいろいろあるが、りんごの曲線がきれいに出ているところが匠の技であるらしい。上半分のフタ部分をあけると、中から陶器が出てきた。
店舗スペースには、現在の職人さんの手によるかごが並んでいた。ここでも女の子が大活躍で、ほとんどすべての商品を手にとって説明してくれた。彼女のタイ語はわかりやすく、また奇跡的なことに、私のタイ語も1回発音するだけで彼女に伝わったようだ。言語の相性が良い相手なのかもしれない。
結局私に買えるのは、割いた竹の幅が数ミリ程度の品物で、糸のように繊細な商品はあきらめた。ピンポイントで探していたものにも出合えなかったけれど、買ったものはどれもきれいな仕上がりで満足した。
棚のうえにプラニーさんの肖像画が飾ってある。やさしい感じのする絵だ。本の発行された7年前にすでに足をひきずり、長年の細かい作業により目を痛めていたというプラニーさんの現在については、何も聞かなかった。
最後に出してくれたタイのお菓子をおいしくいただいて、工房を後にする。プラニーさん一族のあたたかいおもてなしと、ぜいたくなスペースがふんだんにあるお家の造りと、郊外の町のゆったりした空気に、すっかりとろけそうになってしまった。