サバイバル登山、といえばこの著者。
北アルプスや南アルプスで、最小限の荷物を背負い、極力登山道を通らずに山を登ることで知られている。
その荷物たるや、テントなし、燃料なし、いっさいの機械類なし(時計もラジオも…)。
食糧も米と調味料のみで、現地で魚と山菜を調達して三食まかなうというのだから、生半可ではない。
前著の『サバイバル登山』に続くこの本は、昨年夏の北アルプス縦断の記録と、著者の登山観が書かれていた。
「人はズルなしで生きられるのか」のサブタイトルには、私など「ズルだらけです。ゴメンナサイ!」とひれ伏すしかない。
著者のいうズルとは、自分の腹に収まる牛を自分の手で殺せなければ、生き物としてズルではないか、という疑問に始まり、自分自身と向き合い、自分をごまかさない、ということらしい。
自分はズルな私が、まねしたくてもできない、あるいは、報酬が出てもまねしたくないハードでとてつもない登山を、著者が実践して報告してくれるのだからありがたい。
そしてそれは、おもしろくないわけがないのだ。
今日はこの著者の講演を聴いた。大きくよく通る声、はっきりした物言いは以前と変わらず、日本人離れした? 自我の強さも健在だった。
そんなキャラクターも見た目も濃い著者だが、「生きている」ことを確認しようとするナイーブさには、何度もハッとさせられる。
話の最後は「深い人間になりたい」という言葉で締めくくられた。