著者が長年暮らすハノイに、82歳で認知症のお母上(Baちゃん)を呼び寄せ、共に暮らす日々が綴られている。
以前、朝日新聞にこの著者の同じ内容のコラムが掲載されていて、興味深く読んだが、短くまとめてあったので、「Baちゃん」のキャラクターがいまひとつ伝わってこなかった。
その点本書は、新潟弁の「Baちゃん」のセリフが満載で、そのひとつひとつにとぼけた味わいがあって、つい頬がゆるんでしまう。
「こっちは雪が降らんでいいのお」
「屋根の雪も心配しねで、ほっけんどこでゆっくり休ませてもらってそう」
「ああ幸せだのぉ。雪掘りの心配もいらねえ。メシの支度もいらねえ。誰に気兼ねもいらねえ。こうして『食っちゃ寝の化けモン』してられるてだが、ほっけ神経が休まるこたぁねぇの。あんまり幸せで・・バチが当たりそうだて」
豪雪地帯で暮らしてきた働き者の日本女性なのだなー、と感動的ですらある。
そしてこの「Baちゃん」、ベトナム人とも日本語で渡り合って、仲良しになってしまうのだから頼もしい。
実際には「Baちゃん」の2度の手術や失踪? 事件、著者の病気など、大小さまざまなハードルが立ちはだかるが、それらの多くは控えめに書かれている。
また、お年寄りを尊敬しいたわる習慣のあるベトナム人からの手助けは、日本の都会では得られないレベルのものだと思った。
個人的にもっともずっしりと来たのは、もの心ついた頃から自己主張をしてきた私たち世代の人は、戦前の人である「Baちゃん」のような謙虚なお年寄りになれるのだろうか、ということ。
きっと無理だろうな。少なくとも、私にはできそうにない。
*『越後のBaちゃんベトナムへ行く』 小松みゆき・著 2B企画
2007年6月刊 B6判 272頁 1400円 (本体\1334)